【地域とスポーツのそばに】J:COMが届ける高校球児のチカラ
わたしたちは、大切にする価値観の一つに「CHALLENGE(挑戦)」を掲げ、文化・スポーツ両面から次世代のチャレンジへ支援を続けています。
スポーツを通じて、仲間との絆が深まり、感動を分かち合える瞬間をもっと増やしていきたいという想いから、大会や教室を開催するほか、学童試合をはじめアマチュアからプロまでさまざまな競技を放送しています。
この夏、各都道府県で行われる高校野球地方大会においても、北は南北海道大会から南は熊本大会まで、14都道府県15大会の265試合を、各地域のコミュニティチャンネル「J:COMチャンネル」で生中継しました。
大阪大会の制作プロデューサーを務める映像制作第一部の定松さんと、福岡大会を統括する同部の牧さんに、放送に込める想いをお聞きしました。
地方大会に懸ける球児の熱意を伝えたい
——どうして高校野球地方大会の生中継に取り組むのでしょうか?
定松さん:今年の大阪大会は155チームが出場しましたが、甲子園大会に出られるのはたった1校です。大阪大会を中継するようになった10年前、大会終盤の試合以外は放送局による中継はなく、残念ながらほとんどの球児たちは映像に残らない状況でした。
あたりまえですが、強豪校や甲子園大会に出られる球児だけが頑張っているわけではありません。幼い頃から努力して、この大会を最後に野球から離れる球児も多くいます。
ベンチ入りしている選手、スタンドで声をからして応援する選手や同級生、選手たちを支える保護者の方々。彼らの姿をできる限り映し出し、球児一人ひとりの想いを伝えること。
私たちはそうした貴重な試合を、1回戦から生中継で放送し、解説でも丁寧に紹介することで、球場の空気感、球児たちの熱意をリアルタイムで届けています。地域に密着した当社だからこそできる取り組みで、スポーツへの貢献だと考えています。
——球児たちの想いを届けるための工夫はありますか?
牧さん:高校野球って爽やかなんです。プロなら三振やエラーが注目されてしまうことも多いですが、私たちは良いプレーに焦点が当たるように、三振を取れたピッチャーや打った選手が”喜んでいる姿”を映します。球場にあふれるあたたかい想いを残したいと思っています。
定松さん:球場に行かなければ見えないストーリーをどれだけ映像に込められるかを常に考えています。保護者やOBの方に球児のエピソードを取材し、熱戦の背景にある人柄や想いを可能な限り、伝えます。
横断幕が掲げられ、負けたチームから託された折り鶴が大切に引き継がれるなど、球場にはたくさんの想いが詰まっています。限られた人数のスタッフですが、裏側にあるドラマを届けたいし、それができてこそ制作する喜びを感じます。
——制作の過程で、気を配っていることはありますか?
牧さん:主催者との日頃からのコミュニケーションを大切にしています。雨天や選手のケガなど、試合中には速やかな判断が求められますが、多忙な主催者との確認・調整も必要です。
主催者はスムーズな大会運営が最優先な中で、生中継にご協力をいただいています。全国の大会でも長年、生中継に取り組む中で打ち合わせを重ねたり、球場の掃除をしたり、大会をよりよくする活動をともに続けるうちに、高校野球の裾野を広げる放送と評価していただき「J:COMさんありがとう」といっていただけるようになりました。
生中継に関わるすべての人たちが、球児の活躍を一人でも多くの方に見て欲しいという同じ想いで取り組んでいるからこそ、想いの伝わる放送に繋がっているのだと思います。
——生中継はJ:COMだけではなく、他メディアと連携して放送されることもあるとお聞きしました。どのような形で協力されているのでしょうか。
定松さん:大阪大会では府内を南北に分け、トーナメントを勝ち進みます。エリアが拡大する準々決勝と準決勝は、放送エリアが隣接するケーブルテレビ局と共同制作をしています。他地方の大会でも大分大会は地上波放送局と連携していたり、関東エリアは複数のケーブルテレビ局が協力をして放送したりしているのも、テレビ局一丸となって地域の皆さんにお届けしたい想いからです。実際に、2023年の放送では多くの大会で、過去最高の視聴率を更新し、私たちの想いは届いているんだなと実感しました。
牧さん:インターネット上で試合を配信する「バーチャル高校野球」は、2023年度大会で、最多の配信試合数(単一スポーツチャンピオンシップをプラットフォームでライブストリームした試合数)として世界記録を達成しました。実は私たちが撮影した映像も一部ご利用いただいているんです。福岡大会では、1回戦から準々決勝まですべての試合をJ:COMが配信しています。放送と配信で形は変わりますが、全国の高校野球ファンに向けてお届けできていると思うと、嬉しいですね。
放送でつないだ球児の想い
——長く生中継を続ける中で、印象的だった出来事はありますか?
牧さん:2020年、コロナ禍最初の年は甲子園大会が中止になりました。私たちも残念でしたが、球児たちはどんなに辛かったかと思います。
救済措置として各地の高野連(高等学校野球連盟)が独自大会を主催しましたが、球場には保護者すらも入れない完全な無観客での実施でした。高野連としては、感染症対策を図りながらも、夏を目指して頑張ってきた球児や周りの方たちの想いに応えるために、どうすれば放送や配信ができるかを模索されていたんです。
これまでも毎年放送を続けていた私たちが放送を申し出た時はとても喜んでいただけました。感染者を発生させてはいけないプレッシャーと、監督や選手へ直接の取材もできない制限された環境で苦労もありましたが、コロナ禍でも、これまでと同じ規模感で球児の雄姿を届けられたことは自信にも繋がりましたね。
——球場での地域の方とのエピソードがあれば教えてください。
牧さん:球場にいると、放送を喜ぶ声を直接聞く機会が、普段の取材現場以上にあるんです。撮影クルーが球場に入ると、「J:COMが来た!」とざわつかれることも多いです(笑) 放送時間を知りたいと声をかけてくれたり、「放送してくれてありがとう」と笑顔を見せてくださったり。こつこつと長く続けてきたからかなと思います。
定松さん:一番印象に残っているのは、ある保護者の方から涙ながらに握手を求められたこと。長い取材人生の中でも初めての経験でした。
お話を伺うと、ともに大会を目指してきたチームに入院中の球児がいて、出場が叶わず、本来であれば見ることもできない試合だった。それが、J:COMの放送を通じて、病室から仲間の雄姿を見届けることができたと、本当に喜んでいただけました。
私自身も心が動かされましたし、普段から私たちがあたりまえに行っている“地域が求める放送を届ける”ということに、改めてやりがいを感じました。
——定松さんも球児だったそうですね。ご自身の経験が生きることはありますか?
定松さん:大会概要を熟知していることはもちろん、放送局としてルールに則った判断が求められる場面でも、その知識と経験が生かされています。選手たちの気持ちや熱意を理解できることも強みですね。
大阪の高校球児だった当時も、大会序盤からテレビ放送があったらいいなと思っていたので、あの頃の自分が今の自分を知ると驚くでしょうし、そうした夢が実現できていることにやりがいを感じます。
スポーツの不思議な力を信じている
——高校野球を生中継する魅力はなんでしょうか?
牧さん:奇跡的な瞬間に立ち会えることですね。高校野球は見ている人に感動を届ける力がある。世の中の技術がどれだけ発達しても、予測できない驚きがあります。
どんなに強いチームでも、たった一つの小さなエラーで試合の流れが変わり、負けてしまうことがある。逆もしかりです。球児たちはチームワークの重要性や一つひとつのプレー、気持ちの強さが大切なことを知っています。
定松さん:球児たちは純粋です。暑いグラウンドに立ち、ただ一生懸命にチームのみんなのために今なにができるかを考えています。負ければこの試合で引退が決まってしまう3年生のために、少しでも長く試合を続けたいと1、2年生が力以上の何かを発揮することもあります。
生中継は、試合ごとに彼らのドラマを映し出し、視聴者の方が自分の経験と重ね合わせて共感できる瞬間を作り出します。ライブ感と共鳴が、高校野球中継の最大の魅力だなと思います。
延長戦の熱戦や逆転勝利、負けたチームと勝ったチームが称え合うシーン、引退する3年生が涙ながらに仲間に感謝を伝える場面など、奇跡的な瞬間を放送できた時、中継終了後には、自然とスタッフみんなから拍手が起こります。同じ想いで放送に向き合っているチームと感動を共有できることは特別な瞬間で、「最高やな!」という気持ちになります。
——今後、ご自身が取り組みたいこと、展望を教えてください
牧さん:今の放送だけでは伝えきれないぐらい球場には熱気があるんです。新しい技術の導入も含めて、生中継の継続と試合数の拡充にチャレンジしていきたいです。今はまだ中継できる試合数も限られていますが、「地方大会はJ:COMが生中継してくれる」という地域の期待に応える存在を目指したいと思います。
定松さん:地元の球児たちを地域みんなで応援できたら、素敵なことだと思いませんか。環境が変化していく中でも、私たちJ:COMがこの放送を続けていくことが、球児たちのためになると信じています。
甲子園の全国大会で活躍する球児はもちろん、地方大会で涙をのんだ球児たちの中にも、プロ野球選手になる方がいます。反対に、ここで野球人生を終える方もいる。甲子園大会を夢みた球児たちが、「あの夏の試合を見てくれてありがとう」と誰かに伝えてくれたら。いつかどこかで、そんな瞬間が訪れていたら嬉しいですね。