【映画製作】プロデューサーは、少し先の未来を企画する仕事
暮らしに豊かなエンタテインメントをお届けするJ:COMグループには、映画をはじめとする幅広い映像コンテンツの企画・配給を手掛けるアスミック・エースという会社があります。
このアスミック・エースで映像コンテンツの企画に携わり、最近では映画『まる』のアシスタントプロデューサーを務めた竹迫さんに、仕事の醍醐味や苦労についてお話を伺いました。
担当業務、やりがい、今後実現したいことなどを通して、エンタテインメントに関わる仕事の魅力に迫ってみましょう。
クラウドファンディングで映画を自主制作
──竹迫さんの、現在のお仕事の内容について教えてください。
私はプロダクション本部の事業企画部で、プロデューサー業務をしています。実写映画だけにとどまらず、広く映像コンテンツの企画を開発して事業化する部署です。
例えば、縦型ショートドラマ企画「STUDIO sauce」をプロデュースしたり映画館を使ったライブビューイングなどの企画開発を検討したりしています。他にも『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』では宣伝と委員会の業務を担当しました。
──J:COMグループで、どのようにキャリアを築いたのでしょうか。
もともとエンタテインメントに携わる仕事がしたいと思っていたので、グループ企業にアスミック・エースを持つJ:COMに応募しました。
縁があって2016年に新卒としてJ:COMに入社したのですが、最初は福岡局でセールス業務を担当していました。
幼少期からエンタメ全般が大好きで、大学時代の専攻も映像研究でした。映像の持つ、“不特定多数の人を喜ばせることができる力“に魅力を強く感じていたので、自然とコンテンツを作る側になりたいという想いを持つようになりました。福岡局でのセールス業務を通じ、お客さまにコンテンツをご案内することも多々ありましたが、コンテンツを作る側への想いは、さらに高まっていったんです。
そこで、会社に兼業を申請し、クラウドファンディングで300万円ほど集め、プロデューサーとして九州の監督と一緒に自主制作映画を作りました。その経験を通じて、自分の今後のキャリアの中でやりたいことはこれだと確信に変わりました。
こうした活動を経て、上長へ自分のエンタテインメントへの熱い想いを伝え続けた結果、念願が叶い2019年にアスミック・エースへ異動することができました。異動後は、冒頭でお話したようなさまざまな企画に携わる機会に恵まれ、企画をゼロから考えるプロデューサーとしての経験を積んでいます。
プロデューサーって実際どんな仕事?
──プロデューサーの仕事内容を教えてください。
プロデューサーの仕事は、お客さまに喜んでいただけるコンテンツを企画するところから始まります。予算を集めたり、脚本や監督の選定、俳優のキャスティングや脚本の開発などコンテンツの中身の部分に関わります。
さらに、作品の興行に加えて、DVD/ブルーレイ販売、配信、海外セールスなどの二次利用も含め、より多くのひとに届ける戦略を考える仕事です。
つまり、監督は作品の完成がゴールとも言えますが、プロデューサーのゴールはビジネスとしても成功させることです。映画が公開されたら、多くの方に見ていただき興行収入を増やしたり、二次利用で幅広く届けたり、商品化したり、映画の著作権は70年続くので、そこまでいかに価値を最大化できるかを考えてデザインしていく仕事なんです。
──プロデューサーの仕事において、重要なのはどういう点でしょうか?
映画の企画は公開時期の2、3年程度前からスタートするので、未来を見据えて進めていく必要があります。世の中のトレンドを予測しながら、少し先の未来のお客さまの心に届くような作品を生み出すことがプロデューサーの使命です。考えた企画がすぐに世の中に出るわけではないので、先を見越した企画開発が求められます。
確かに大変な部分もありますが、未来のお客さまに喜んでいただけるアイデアを練るのは、ロマンがあってやりがいのある仕事だと思います。
映画『まる』の撮影現場ではじめて”演技事務“を任された
──映画『まる』の撮影現場では、具体的にどのような役割を担当されたのでしょうか?
『まる』の撮影現場では、 プロデューサーから“演技事務”という仕事を任されました。一般的にあまり知られていないと思いますが、演技事務は監督やキャストが撮影に専念できるように、キャストのスケジュール管理やマネージャーとのやり取りなどを行い、現場の段取りを滞りなく進行する役割です。
具体的には、助監督が香盤表(撮影日程表)を作成するために不可欠なキャスト全員のスケジュール一覧を作成したり、撮影当日は現場に到着したキャストを控室へ案内し、出番になると撮影現場へ誘導したり…といった段取りを行います。現場の動きを肌で感じることができ、非常に貴重な経験でした。
──撮影現場に本格的に入るのは、今回が初めてだったそうですが、現場はいかがでしたか?
はい、アスミック・エースに入社してから、いくつかの作品の製作委員会に参加していましたが、実際の撮影現場に入るのは今回が初めてでした。
これまで経験したことのない業務だったので、現場に入ってプロデューサーや助監督などから演技事務として任される仕事を1つひとつ手探りで行った感じで、率直な感想としては、とても大変でした…。特にキャストの撮影現場と控室の移動をスムーズに行うことには苦労が多かったですね。
撮影を円滑に進めるために、複数のキャストの居場所や撮影スケジュールをインカムなどで確認しながら、押したり巻いたりする出番時間をリアルタイムで把握し、撮影現場や控室にキャストを案内する必要があるのですが、これがなかなかうまくいかずに怒られることもしばしばで…。自分の至らなさを感じる場面が多かったですね。
『まる』の撮影は1カ月ほどでしたが、撮影が進むにつれて、現場の流れにも慣れてきて、ようやくスムーズにできるようになったところで、撮影が終わった感じでした。
プロデューサーの苦労とやりがい
──これまでの失敗談や学びを教えてください。
最初の頃は失敗だらけでしたね。
特に大変だったのは、関係者とのコミュニケーションです。1日に10人以上のスタッフや事務所関係者などと電話やメールでやりとりをするのですが、 お伝えたつもりでも相手に伝わっていなかったり、優先順位の判断を間違えてしまって対処が後手に回ることもありました。
今振り返ると、そういった失敗から学ぶことも多かったです。仕事の優先順位の付け方や、関係者への正確な情報共有の大切さは骨身にしみましたね。今でも失敗はありますが、そこからも学んで成長につなげたいと思っています。
──プロデューサーならではの大変さはどんなところですか?
映画を製作するにあたり、多くの人たちと向き合うポジションなので、やはり調整は大変ですね。
関係者一同、全員が映画の成功を目指して同じ方向を向いているのですが、それぞれの役割は違うので、どうしても意見の食い違いは出てくることがあります。
当初思い描いた通りには企画が進んでいかないことも多いです。
例えばキャスティングで、主演に想定していた俳優のスケジュールが合わなかったりします。そういった状況を関係者に伝え、映画の成功のために臨機応変に対応して最適解に導くのがプロデューサーの仕事なんですが、まだまだ自分は力不足だと感じる場面が多いです。
──プロデューサーとしてやりがいを感じる瞬間はどんな時ですか?
作品が公開された瞬間は大きなやりがいを感じます。
インターネット上でのクチコミや、ファンの方が楽しんでいる姿を見ると、本当に良かったなと思います。
SNSの反応はよくチェックしていて、公開時のリアクションを見るのは喜びでもあり、逆に厳しい意見があるのも事実です。映画ビジネスは劇場興行での成功が重要ですので、公開初日の金曜日から土日にかけての3日間でいかに多くのお客さんに劇場に足を運んで観ていただくかがとても大切です。そういった意味でも公開直後のクチコミを見るときは非常に緊張しますね。
自分が作ったものが世に出る瞬間は、まるで自分の子どもが産み落とされたような感覚があり、当然思い入れもあります。劇場の初日舞台挨拶などで、実際にお客さまが満足いただいている様子を見たり、聞いたりするのは本当に嬉しい瞬間です。
先々に向けて色々な企画を準備中!
──今後のミッションや目標について教えてください。
自分の企画でヒット作品を生み出すことが大きな目標のひとつです。
数年前から温めていた企画で、進行中のものもあるので、それを形にしたいと思っています。
来年以降も色々な企画を準備中ですので、楽しみにしていてください。
昨今、ファンの共感を呼ぶコンテンツはますます可能性が広がっていると思います。狭く深くファンに届いてスマッシュヒットする作品やライブビューイングなど、これまでの劇場映画という形態にこだわらないコンテンツが増えてきています。既存のフォーマットに縛られずに挑戦できる業界になっているのを肌で感じていますので、私もどんどんチャレンジしていきます。
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竹迫さんがアシスタントプロデューサーとして関わった映画『まる』が2024年10月18日に公開されました。
この映画の魅力は、答えが明確に示されるのではなく、観る人それぞれに感じ方や解釈の余地が残されているところだと思います。
今の時代はネットで調べたりAIに聞けばすぐに答えに辿り着く時代で、映画やドラマでも答えを求めてしまいたくなる人も多いかと思いますが、本作は映像で魅せる「映画的な映画」と言うのでしょうか。観客一人ひとりに正解があり、ゆったりと、構えずに感じたり考えたりしていただける作品になっています。
主演の堂本剛さんも仰っていましたが、私も『まる』はくすっと笑えるところも多いゆるい喜劇だと思っているので、多くの人に気軽に楽しんでほしいですね。
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