【このまちとともに】ライドシェアで運ぶ地域への想い~南海オンデマンドバスSupported by J:COM~
J:COMは、地域社会の持続的な成長に貢献するため、全国の自治体や企業とともに地域特有の課題解決に取り組んでいます。その取り組みの一つが、AIを活用した予約型乗合バスサービス「オンデマンドバス」です。高齢化が進み、移動に不便を抱える大阪府堺市の泉北ニュータウン地域で実証事業を実施し、地域のお客さまの外出機会の増大や移動範囲の拡大に貢献しました。
地域プロデューサーとして地域の課題や想いに耳を傾け、実証事業を主導したジェイコムウエスト 地域コミュニケーション統括部 碇さんと、J:COMの技術力・データを活かして新規事業の開発に奮闘しているビジネス開発第二部 花本さんに、取り組みと実証事業の先に描くビジョンを聞きました。
地域の交通利便性向上のため、自治体と地元企業が協力
—— 「南海オンデマンドバスSupported by J:COM」とはどのような取り組みですか?
花本:大阪府堺市の泉北ニュータウン地域を対象にした予約型のオンデマンドバスサービスです。地域にお住まいの方々の移動ニーズの調査・検証のため、堺市、南海電鉄、南海バスとともに、2023年10月から2024年1月の4ヶ月間、実証事業として期間限定でサービスを提供しました。
通常の路線バスとは異なり、オンデマンドバスには決まった時刻表や路線はありません。利用者はアプリや電話から乗る場所・降りる場所を自由に予約することができます。
利用者の予約に応じた効率的な配車や最適な運行ルートの自動生成には、AI(人工知能)を活用しています。J:COMはアプリを使ったオンデマンドバス予約システムの導入と、オンデマンドバスをストレスなくご利用いただくためのプロモーション活動を担当しました。
—— なぜ堺市と南海電鉄、南海バス、J:COMが共同でこの取り組みをすすめることになったのでしょうか。
碇:J:COMのサービス提供エリアの一つである堺市、堺市内を走る南海電鉄、南海バスとは、これまでもともに地域活性化に向けた取り組みやイベントを実施してきました。地域の課題をキャッチアップし、私たちが地域のために貢献できることを常に考えています。
泉北ニュータウンは、高度経済成長期の住宅需要に応えるための計画的市街地として開発されました。1967年にまちびらきを行い、現在は約11万人、5万6,000世帯(令和2年4月末時点)が暮らしていますが、社会環境の変化とともに人口の減少、少子・高齢化が課題となっています。さらに、起伏のある地形のため坂道が多く、車など交通手段のないシニアが外出困難な状況にありました。
堺市は、泉北ニュータウンの価値向上と住民の暮らしの質向上のため、新技術やテクノロジーを活用して課題解決を目指す、公民連携の組織「SENBOKUスマートシティコンソーシアム」を2022年に立ち上げています。
このコンソーシアムの中にはモビリティに関するワーキンググループがあります。オンデマンドバスを走らせることで、泉北ニュータウンの住民の外出機会創出を促し、利便性向上によって住民の暮らしの質向上を目指していました。南海電鉄、南海バスがもつ地元交通事業者としての課題感に、私たちJ:COMが培ってきた技術やノウハウを応用すれば、泉北ニュータウンの移動課題の解決に一歩近づくことができるのではないかと考えたんです。
地域が抱える課題をテクノロジーで解決したい
——J:COMが培ってきた技術やノウハウとはどういったものですか?
花本:実はJ:COMでは2020年から、社内の営業スタッフを営業の目的地まで送迎するライドシェアサービス「J:COM MaaS(マース)」を運用しています。
※MaaS(Mobility as a Service)とは、複数の公共交通機関や移動手段から最適な組み合わせを選び出し、検索・予約・決済等を一括で行えるサービスのこと
J:COMには既に多くのお客さまにご利用いただいているテレビやインターネットサービスに加えて、新規事業を創造していく風土があります。その一つ、社内ベンチャー制度 JIP(J:COM Innovation Program)の第一期として始まったのが、オンデマンドバスを含むライドシェア事業です。
過疎化による路線バスの減少や、シニアの免許返納等により移動課題が表面化している頃でした。「子育て世代からシニアの方まで移動を自由に」したいという想いから、ライドシェア事業の検討をスタートしたのですが、タクシー業を営むための許可を持っていない私たちは一般のお客さまに乗車サービスを提供することができません。
そこで、まずは従業員向けにオンデマンドバスを提供し、ノウハウと利用データを蓄積することから始めました。同じエリア、同じ道でも、平日朝のラッシュと休日昼間の落ち着いた時間帯では、効率的なルートは大きく変わります。従業員が実際に使うことで、曜日や時間、エリアごとの効率的な移動ルートを知ることができる貴重なデータが集まりました。
サービス開始から2024年3月末までの運行実績は乗車回数51万5千回を超え、導入営業局数は全65 局のうち半数近くに広がっています。もちろん、堺市内の営業局でも運用中です。
2020年7月にスタートして約3年分の実績を活用した初めての実証事業が、今回の「南海オンデマンドバス」なんです。
——モビリティサービスが地域課題の解決に向けて果たせる役割とは?
花本:高齢化が進む昨今、自動車運転免許の返納件数は年間40万件にのぼります。その一方でタクシー不足、人材不足を背景に路線バスの減便・廃止なども相次いでいて、日々の暮らしの中で移動する手段がない、という状況が増えています。モビリティサービスを発展させることにより、こうした方々のお困りごと解決に繋がり、生活の利便性を高めることができるのではと考えています。
暮らしに寄り添い地域のニーズを把握しながら、私たちがこれまでのサービス開発で培った技術やノウハウを応用していくことで、移動だけでなくその先にある暮らし全体の質向上に繋げていきたいです。
AIオンデマンドバスの実証運用で外出機会の増加に貢献
——今回の実証事業の内容について教えてください。
碇:運行時間は毎日朝9時から夕方18時まで、乗車賃は1回300円です。泉北ニュータウンには路線バスが走っていますが、既存のバス停と重ならないように場所を選定し、オンデマンドバスの停留所を50か所配置しました。利用される方はアプリや電話で乗車停留所、降車停留所を自由に選択して予約することができます。
4ヶ月の実証期間で乗車人数は延べ3,253人、アカウント登録数1,657件と多くの方にご利用いただきました。
——利用者の反応はいかがでしたか?
碇:アンケート結果によると、利用目的は買い物や外食、趣味の外出や通院など、日常生活でのご移動が大半です。免許を返納されたシニアの方が「既存の公共交通機関では行きづらい場所へも移動がスムーズ」「待たずに乗れる」といったニーズで利用され、ベビーカーを使われる若いファミリーの方からは「アプリ予約で必ず座れて便利」といったお声もいただきました。
「実証事業前にどうやって移動していたのかわからない」「なくなったら困るから続けてほしい」という切実な願いも届き、住民の方がこの街で快適に暮らし続けられるサービスを提供したいという想いは強くなりました。
花本:私たちとしても驚きだったのは、オンデマンドバスがシニアの方々のコミュニティづくりに活用されていたことです。人気停留所ランキングでは、駅を除くとスーパー銭湯が1位になっています。もちろん、はじめは銭湯に通っているのだと思いました。ですが、よくよくお話を聞いてみると、銭湯の利用に加えて、グループランチで付近の回転すしやファミリーレストランを利用されていることがわかりました。しかもリピートで。
この付近はバス停がないエリアです。バス停が未整備のエリアを対象にしたことで、これまでアクセスが難しかった場所へグループでのお出かけが増加していたんです。当初の目的であった、外出機会を促すことに貢献できたのだと、嬉しく思いました。
潜在ニーズを可視化できたことは、今後のより良い地域貢献活動につながる大きな成果です。
期間中、私たちも現地に何度も足を運んでいたので、この地域に詳しくなりました。新しくできたスーパーマーケットを地元の方より早く知り、ご案内して喜んでいただいたこともありましたね。
——実証事業にあたって特に力をいれたことは?
花本:初めての方にも気軽にご利用いただけるよう、きっかけ作りとなるようなさまざまな施策を実施しました。
例えば、住民の方へ向けた説明会や私たちの販売パートナーであるauショップでのアプリ利用相談会を計47回 実施し、延べ1,200人にご参加いただきました。今回アプリの利用率が伸びたのも、一人ひとりに丁寧に説明した結果だと考えています。
駅前広場では定期的に参加型のイベントを開催して、地域の皆さまに興味を持っていただき、バスの利用を促す仕掛けも作りました。
また、放送事業者の強みを生かし、ディズニー公式動画配信サービス「ディズニープラス」とコラボレーションしたラッピングバスを運行しました。バスを見かけた住民の方からは「何が走っているの?」と声をかけていただくこともあり、認知度の向上に役立ったと思っています。
乗車された方に「ディズニープラス」グッズを差し上げるプレゼントキャンペーンは、お子さま連れのお客さまにも喜ばれ、利用を喚起することができました。
——そのほか、J:COMならではの強みが活かせたところは?
花本:地域プロデューサーである碇さんの存在が大きかったと思います。碇さんがコンソーシアムや地域の皆さまのご意見や課題を日頃からヒアリングし、社内にシェアしていただくことで「J:COMとして何ができるか」を考えることができました。
東京に勤務する私たちビジネスイノベーション本部では、どうしても対面で話せる機会が限られています。碇さんの地域に寄り添う視点が、今回の成果に繋げられたと思います。
碇:ビジネスイノベーション本部とジェイコムウエスト、堺市に所在する堺局の3つが緊密に連携できたのも成功の要因だったと思います。
今回、複数の企業が参加しましたが、それぞれ企業文化も違うのでプロジェクトをどう進めるかは悩みました。会議後にJ:COMチームで「どう伝えるのがいいのか」と反省会をしたことも…。一人ひとりがビジョンと個人の役割を明確に認識したことで物事がどんどん円滑に進むようになり、コミュニケーションの大切さを痛感しました。
地域に信頼され、協力し合えるJ:COMに
—— 今後はどのような取り組みをされていくのでしょうか。
花本:ライドシェア事業は前向きに実用化を進めていきたいと考えています。それには、私たちの想いだけでは実現が難しく、地域の方から信頼され、協力し合える関係を構築することが大切です。引き続き各地域の交通課題をヒアリングしながら、地元の交通事業者や自治体を巻き込んで実証実験を重ねていきたいですね。
碇: J:COMはケーブルテレビやインターネットサービスのイメージが強いと思います。でもプロジェクトを通して「J:COMさんならこんなこともできるんじゃない?」とご要望やご相談を多くいただき、私たちへの期待の高さを実感しました。
地域密着を大切にしているJ:COMとして、地域の皆さまに頼られる存在になれるよう、持続可能な地域社会に向けて、これからもこの街に根差した活動を続けていきたいと思います。
個人的には、今回の経験を活かして、ライドシェア事業に限らず、他の会社と組んで、新たに共創していくことにチャレンジしたいですね。
花本:いまお住まいの地域の皆さまに喜んでいただける事業展開はもちろん、J:COMが提供するサービスに魅力を感じて、あの街に住んでみたいと思っていただけるような会社になれたら嬉しいです。これからも、いろんな地域と一緒になって、街やその地域に暮らす方々に必要としていただけるようなサービスの開発、強化に取り組んでいきたいと思います。