【この街とともに】世代やコミュニティをつなぐチャリティーイベントへ
東京都足立区は生活保護世帯が多く、子どもの就学援助率も高い状況が続いており、社会課題となっています。提供エリアとしてこの地に根を張るJ:COMは区内の子どもたちを支援する取り組みを続けています。
サンタ姿で街を歩き、イベントで集まった協賛金を利用して子ども食堂や支援が必要な子どもたちへのクリスマスプレゼントデリバリーを行う、「あだちサンタウォーク」。J:COMは2017年からこのイベントを企画し、実行委員会の事務局を担当しています。
本チャリティーの発起人のひとりである鳥井さんに、持続可能な地域づくりに向けてどのように取り組んでいるのか、その想いを聞きました。
すべての子どもたちが夢に向かって生き抜くように
—— あだちサンタウォークとはどういったイベントなのでしょうか。
足立区の中心的な繁華街である北千住で、約400名が全員サンタクロースの格好をして街歩きを楽しみ、後日このイベントで集まった寄付・協賛金を使って困窮家庭の子どもたちや子ども食堂へプレゼントを届けるイベントです。2017年からスタートして、コロナ禍の中断を挟みつつ、今年で8回目を迎えます。
街歩きを通して、地域の大人たちが困っている子どもたちを応援しているよというメッセージを伝え、プレゼントのお届けを通じて、子どもたちにクリスマスの文化や体験、そしてわくわくする気持ちを届けたい…。そんな想いで始めたイベントです。
足立区は世代を超えた貧困が課題になっており、区全体でこの問題に取り組んでいます。私たちにもできることはないだろうかと考え、社会福祉法人連絡会や地元の皆さんと連携しながらこのイベントを企画・運営しています。
—— 子どもの貧困対策として「サンタウォーク」という形をとったのはどういった経緯があったのでしょうか?
子どもたちの貧困問題に向けて地域の皆さんを巻き込みながら何かできないか…と考えている中で、当時の上司が大阪で実施された「大阪グレートサンタラン(現・サンタパレード)」イベントの様子をテレビで見て「これだ!」と閃いたんです。
サンタランは、世界各地でクリスマスシーズンにサンタの恰好でランニングをするチャリティーイベントなのですが、大阪では病児への支援を目的に2008年から実施されています。
発起人の方からノウハウをお聞きして、北千住にはみんなで走れるようなスペースがない…ということもあり、街を練り歩く「サンタウォーク」という形になりました。
このイベントならお金を集めるだけでなく、参加した人みんなが楽しみながら自分事として関わる仕組みにすることで、長く続く取り組みにできるのではと思いました。
そして何よりも、子どもたちにクリスマスを届けられることがすごく素敵ですよね。貧困は経済面だけでなく、体験や交流、機会の乏しさにもつながります。「クリスマスにサンタが来て、プレゼントを届けてくれる」という文化・体験もその一つだと思うんです。毎年メンバーがサンタ姿でプレゼントを配りに行くのですが、子どもたちが喜ぶ姿を見るとイベントを続けていてよかったなと思います。
—— 鳥井さんはイベント開始当時どのような役割を果たしていたのでしょうか。
企画にGOサインが出てから、実際のイベント実施にいたるまで本当になんでもやりました。ゼロからスタートしたのでなかなか大変でしたが、当時の私は「地域プロデューサー」として地域の方々とつながりながら仕事をしていたので、商工会議所や商店街連合会、自治会連合会などの皆さんに声をかけて協力いただいて、皆さんの知見や人脈を生かしながら進めていきました。
地域プロデューサーは、地域とJ:COMの架け橋という役割だと思っています。地域の方々と日々コミュニケーションをとりながら、地域の課題や実現したいことをお聞きして提案を行っていました。J:COMは番組制作や地域を盛り上げるイベント運営のノウハウを持っているので、このイベントでも活用できました。
サンタウォークに関しては、私たちが旗振り役になって、みんなを集めて一から作ったイベントです。チャリティーなので当然収益はありませんが、地域の皆さんと一丸となって子どもたちのために取り組むイベントは、地域に貢献できている実感があり、やりがいがあります。
現在は営業局を管理する仕事に移っているのですが、後任の方と連携しながら現在も参加し続けています。
世代をつないで循環していく
——イベントを実施する中でどういった点に苦労しましたか?
コロナ禍ではイベントを中断せざるを得ず、オンライン開催なども試したのですがなかなかうまくいかず苦労しました。ただ、その時は逆にスポンサー企業からの支援がすごく集まったんです。これは、足立区の生活保護申請率が伸びていたこともあり、企業の方々にはコロナ禍でサポートが必要な人が増えているという共通認識があったからだと思います。
そこで集まった支援金を地域のNPOや子ども食堂に寄付することができ、活動の幅が一気に広がりました。子ども食堂との連携により、届け先の子どもたちの数が1000人単位で増えました。場所によっては100人くらいの子どもたちに食べ物などをお届けしているところもあり、今では30以上の団体と協力し、恐らく数千人の子どもたちに届いているかと思います。
——サンタウォークは今年で8回目と伺いました。長く続けていることで変化を感じることはありますか?
すっかり地域に根付いたイベントになったな、と思います。協賛企業も増えていますし、一度参加した人がまた次の年お友達を連れてきてくれてどんどん広がっています。また、イベントのチラシを商店街や学校に配布する際も、皆さんすごく協力的で、地域に受け入れられているなという実感があります。
イベントの告知前から「今年はやらないの?」と方々からお声がけいただくくらい、地域の方々が楽しみにしてくれています。
嬉しい反響といえば、前回のサンタウォークで中学生の女の子がお母さんと一緒に参加してくれたのですが、その女の子が「お母さんのことをすごく偉いと思った」という感想をくれたんです。その意図を聞いてみると、こういったチャリティーへ参加する意識を持っていることや、イベントをきっかけに親子で貧困やチャリティーについて話す場をもったことで母親を尊敬した、というお話でした。
こうして、次の世代に想いが引き継がれていく場になっていることを知り、長く続けてきた意義を感じました。
この例に限らず、ボランティアの学生たちも上級生から下級生へ、さらに他校の学生へも広がっていますし、次へバトンをつなぎながらこのイベントが成長していくようになったのが長く続けてきた成果だなと感じます。
わたしたち民間企業ができること
—— この活動に関して社内の反響はいかがですか?
同僚たちも私たちの想いに賛同してくれて、喜んで参加してくれています。
会社全体が持続可能な地域作りに取り組んでいるので、みんながジブンゴト化して取り組んでくれているのかなと思います。
この活動を知った社員から、「実は自分も困窮家庭に育った。こうした取り組みをJ:COMが続けてくれるのがありがたい。続けてほしい。」という声をもらうことがありました。背中を押してもらえてうれしかったのと同時に、思っていた以上に貧困はすぐ近くにあるということを改めて実感しました。
この「あだちサンタウォーク」はあくまで民間のイベントなのですが、今でも定期的に区長や教育委員会と意見交換をしています。その時によく伺うのが行政として支援を行う場合、平等であらねばならないという制約から、手が届かない子どもがでてきてしまうというお話です。民間の私たちだからこそできることを、ということで、草の根的に地域の子どもたちの状況をヒアリングして、ささやかではありますが支援の活動を続けています。
──チャリティー活動のあり方について、鳥井さんはどのように考えていますか?
チャリティー活動は、時として恵まれている人からの一方的な施しのように捉えられがちですが、関わり合うみんなにとって幸せになれる取り組みでありたいと思っています。
例えば、チャリティーでお渡しするプレゼントが当事者からすると本当に必要としているものとは違うこともあります。そのギャップを埋めるためには、長年活動を続け、いろんな方の声を聞きながら、より相手の身になって考え、助けになる活動に変えていく必要があります。そのコミュニケーションの中で、チャリティーを行う人も気づきや喜びがあったらいいなと思います。
私自身もこの活動を続ける中で、得られた気づきがたくさんあります。
私たちの活動もまだまだ変わらなければいけませんが、あまり堅苦しくならずに楽しくやっていきたいと思っています。
みんなが手を取り合って、次の支援へつなげていく
—— 今後このイベントをどうしていきたいと考えていますか?
私一人でできることは限られますが、個人的には長く続けていきたいですし、活動の幅も広げていきたいです。
サンタウォークをきっかけに支援団体とボランティアや青年会議所などのつながりができ、自然発生的にコミュニティがつながり、次のアクションの芽があちこちで生まれつつあります。一つの団体や会社だけではなかなか実現できないことも、こうしてみんなが連携しあえばもっとできることが増えていく気がしますね。
それぞれ、地域のために活動している活動の点と点をつないで、線にしていき、さらに広げて面にしていく…そしてそれを循環させていきたいです。